雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
少年にずいと寄られて思葉は思わず一歩下がる。
そこで不意に既視感をおぼえた。
(あれ、こんな人、前にも観たような……)
記憶を巡らせる。
少し時代と外れた装い、顔を隠す奇妙な鬼面、腰に携える得物。
彼と同じような格好をした二人組と以前、学校で出逢った。
「……あんた、阿毘(あび)なの?」
「おっ、大正解、よく分かったなー。
あっ、おれは環玄(わつね)っていうんだ、まぁよろしくな、思葉」
環玄と名乗った少年は、指をパチりと鳴らした。
阿毘。
それは人とよく似た姿をとる、地獄の閻魔王に仕える鬼だ。
地獄の内側を守り亡者たちを懲らしめる獄卒たちと異なり、彼らは彼岸と此岸を監視し取り締まる存在である。
だが、こうして人の前に現れることは滅多にない。
以前思葉は別の阿毘と遭遇したが、それは彼女が彼らの監視していた付喪神の一件に関わったからである。
ならばなぜ、この阿毘は自分の前に現れたのか。
自然と鼓動が速まっていく。
「それで……あたしに何か用事でも?」
「ん?そんなのないぜ、たまたまおまえを見かけただけだから。
轉伏(うつふし)から話を聞いただけだったけど、すぐにおまえだって分かったぜ」
「そ、そうなんだ……」
あまりにも軽い調子で返され、思葉はどう間合いをとればよいか測りかねる。
以前出逢った珒砂(しんしゃ)という阿毘もすぐに怒るので難しかったが、環玄はもっと厄介だ。
ものすごく適当というか、考える前に行動に移しているようだ。