雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕





「離してっ!」



叫んだ直後、背中を壁に叩きつけるような強さで押し付けられた。


衝撃で息の塊が喉に詰まる。


いつの間にか両手首を抑えられ、身動きが取れなくなっていた。


元々部屋の壁際に立っていたというのもあるが、それでも何が起こったか一瞬理解できなくなる速さだった。


思葉の動きを片腕で易々と封じ込めた阿毘は、面を少しずらして口角を吊り上げた。


鋭い歯がずらりと並び、やけに赤い舌が唇をなぞる。


歌舞伎役者の隈取のような模様が走る肌と相俟って、不気味さがさらに増す。


彼が人間でないことをまざまざと突きつけられているようだ。



「なあ、少しだけ、少しだけ齧らせてくれよ。


本当に少しだけでいいからさ、なあ、いいだろ、な?な?」


「ひっ……!」



環玄が思葉の肩と首との境目へと顔を寄せてくる。


一応尋ねてはいるが、もうほとんど独断で動いている状態だ、思葉が何を言っても聞き入れるつもりはない様子である。


もうダメだ――そう思って歯を食いしばったとき、また一つ気配が唐突に現れたのを感じた。



「いいわけねえだろ、このサボり魔がぁーっ!!」



その気配は怒鳴りながら環玄を蹴りとばす。


思葉は環玄に掴まれたままの手首を引っ張られ巻き込まれそうになったが、また別の誰かによって支えられた。


その人が環玄の手首に手刀を落としてくれたおかげで解放される。


蹴られた環玄は派手に吹っ飛ばされ、反対側の壁に叩きつけられた。




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