雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
そんな様子の環玄の襟首を珒砂は鷲掴み、引きずりながらこちらへやって来た。
いつの間にか、壁や床を派手に汚していた血はきれいになくなっていた。
「轉伏、おれはこのばかを連れて一旦悍染さんに報告してくるから、その間こっちは頼んだぞ」
「いいけど、珒砂、まさか思葉ちゃんになんの謝罪もなく行くつもりじゃないだろうね?」
「はあっ?何でおれがこいつに謝んなきゃなんないんだよ!」
「だって実害は出なかったとはいえ迷惑をかけたのは事実だし、環玄の手綱握る役目は珒砂だろう。
したがって、環玄の不始末はお目付け役の君が責任を取る、それが定石じゃないかな?」
青鬼の面が思葉の方を向く。
顔は隠されていて見えないはずなのに、彼が浮かべている表情はたやすく想像がついた。
絶対に、苦虫を大量に噛み潰したような表情になっている。
その状態で十数秒ほどが経ち、やがて諦めた様子で珒砂が思葉に軽く頭を下げた。
「……ばかが迷惑をかけて、悪かったな」
とんでもなく不機嫌で、誠実さが欠片も感じられない口調である。
反応に困っていると、あははと笑いながら轉伏が思葉の背中を軽く叩いた。
「まあ珒砂にしては合格点かな。
ごめんね思葉ちゃん、珒砂は素直になるのがすっごく苦手なんだ、あれで勘弁してあげてね。
絶対に見せようとしないだけで、本当は胸の中で激しく後悔しているんだよ」
「うるせえ、意味分かんねえことを抜かすんじゃねえよ轉伏!」