雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「連中が特に喰いたがるのが、自分たちの波動を感じ取れる人間……君たちの言葉で言い表すなら、霊感の強い人間と言えば分かるかな?
その魂や骨肉を喰らえば、かなりの妖力を得られるからね。
でね、ぼくは人間を喰いたいとは思わないから分からないけど、そういう類の人間は力が強ければ強いほどいい匂いがするそうなんだ。
それこそ、涎が止まらなくて、その血肉を口に含み胃に収めなければ我慢できないくらいに」
ぽんぽんとおぞましい言葉が鼓膜にぶつかってくる。
思葉は生唾を呑みこみ、顎を引いて青鬼の面を見つめた。
自然と鼓動が、先ほどとは別の理由で速まる。
「……つまり、あたしからそういう匂いが出てるってこと?」
「生まれたのがこの時代でよかったね、間違えてたらその歳になる前に妖怪たちに貪られていたんじゃないの?
閻魔王の支配を受けているはずの環玄があんな風に誘われたんだから、まああいつ自身の性格にも問題はあるけど、それでもかなり強烈に匂っていると思ってくれればいいよ。
さらに言えば君の場合、自己防衛の力がほとんどない。
それでは悪食以外の妖怪たちにも付け狙われる……あの妖刀や永近が傍に居ても、君自身がそんなんじゃ護るのは難しいんじゃないのかなあ」
「えっと……要するに?」