雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「まあ簡単に言えば、用心しておきなってこと。
最近、ここ一帯に幽世や彼岸に住まうものが寄り集まっているからね。
その原因を調べるために、今ぼくらはこちらに居るんだけど」
「……はあっ!?」
轉伏が声の調子をまったく変えず、さらりととんでもないことを言ってのける。
まるで最近暗くなるのが早いからすぐ家に帰りなさいと子供に言っているような感じだ。
思葉は危うく聞き流しそうになり、血相を変えて轉伏に詰め寄った。
「ちょっと待ってよ、今のどういうこと!?
幽世や彼岸に住まうものって……それって妖怪とか幽霊のことでしょ?
なんでそんなのがこの周辺にいるのよ!」
「その原因を今ぼくたちが調査してるんだよ。
まだ始めたばかりだし、解決するまで気長に待ってて。
あぁ大丈夫、君たち人間に危害を加えることがないように対策はしているからさ。
でも、いちばん襲われそうな心配要素に注意しておけてよかったよ」
「え?それってどういう……」
言いかけた思葉を遮るように、轉伏が頭をくしゃりと撫でる。
「じゃあそういうことだから、それまでの間は一人で永近の結界の外を出歩くときは気をつけておいて。
特に夜や、彼岸と此岸の境目が曖昧になりやすい逢魔が時はね。
それと、自分からあんまり首を突っ込まないこと、ただでさえ君は受難傾向が強い波動を持っているんだから」
「ちょ、ちょっと……!」