雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
片
孫娘の相談に、祖父が与えた答えは手のひらに収まるほど小さな袋だった。
竜胆(りんどう)色のちりめんで作られ、中には何かを詰めているらしく膨らんでいるが、びっくりするほど軽い。
「思葉、ほれ」
朝食を摂り、歯磨きを済ませて部屋に戻ろうとする思葉は、永近からこの袋をひょいと渡された。
袋の大きさにしては紐が長い、首にネックレスのようにかけられそうだ。
「なにこれ?」
「匂い袋だ。ほら、昨日言っていただろう、護身を強めたいと」
「うん」
「昔から匂い袋には、というより、香には魔を祓う清めの力があるとされているんだ。
効力はそこに詰める香木によるがな。
塗香(ずこう)より力は劣るが、そちらはけっこう匂いが強くてな、香水をつけていると先生方に叱られるのは嫌だろう。
まあ劣るといっても致命的じゃないから安心していいぞ」
永近も、思葉と同じように普通の人には観えないものが観える。
それから自分の身を守るために、独学で陰陽師が扱う術の類を身につけたらしい(実際、その術に助けられたことは何度もあった)。
自分に使いやすくアレンジしたり、一から編み出したものもあったりするというから驚きである。
櫛の付喪神の騒動のあと、思葉にとって祖父は駆け込み寺ともなっていた。
「匂いは抑えめにしておいた。
それを首にかけておけば、そこいらにいるような妖怪は近づかんだろう」
「玖皎みたいな強い妖怪にも効く?」
「……そんなもんに遭う前にとっとと帰ってこい」