雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
永近が表情を渋くしたので、思葉は軽く首を竦めお礼を言って階段をのぼった。
あの半分でもいいから、自分にも術を扱える力があればいいのにと思う。
(まあ、ないものを強請っても仕方ないわよね)
ため息をついてドアを開けた瞬間、思わず「うっ……」と声を出しそうになってこらえた。
部屋にはあからさまに不機嫌な表情を浮かべている玖皎がいた。
テーブルに肘をつき、眉間を険しくしてどこかを睨みつけている。
「ちょっと、まだ怒ってるの?」
「怒っていない」
「怒ってるじゃん」
「うるさい」
刺々しい言葉を返しながら、玖皎が同じような視線を向けてくる。
纏っているオーラがどす黒く観えるのは、果たして気のせいなのだろうか。
触らぬ玖皎になんとやら。
思葉はこっそりため息をついてそれ以上は聞かず、登校の準備をした。
玖皎の機嫌が悪くなったのは、昨夜護身について永近に相談したのがきっかけである。
急に護身を心配し始めた主を不思議に思った玖皎が、なぜ護身を強めたいと考えるのか尋ねてきたのだ。
それで思葉は轉伏から受けた忠告を答えた。
「ほう、轉伏のやつ、まだこの辺りの見張りをしているのか」
「おじいちゃん、轉伏のこと知ってたの?」
「昔に何度か世話になってな。
珒砂という阿毘もいたか?あの二人はよく一緒に行動を取っていたと思うが」
「うん、いたよ」
何となく察してはいたが、改めて永近が阿毘と面識があることを告げられて驚いた。