雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕





思葉は環玄と会ったことは話さなかった。


どこかでうっかり口を滑べらせて、危うく喰われそうになったことをしゃべりたくなかったのだ。


永近が環玄の悪食という特徴を知っていたら悟られるかもしれないおそれもあった。


掻い摘んだ話を聞いて永近は納得し、翌朝までに対策を用意すると約束してくれた。


だが、玖皎はそうはいかなかった。



「思葉、なんで連中はおまえと会ったんだ?」


「なんでって、そんなの知らないわよ。


あ、調査しているところだって言ってたし、その途中でたまたまあたしが独りでいたから話しかけてきたんじゃないの?」


「……本当にそれだけなのか?


連中はそれだけでおまえに会いに行くような性分じゃないぞ。


それに、わざわざ忠告しにくるほど優しくない」


「だから知らないってば」



(あ、これ噛まれそうになったこと話したら絶対にマズイ)



思葉は玖皎の様子を見てそう判断し、詳しいことは何も知らないというふりを続けた。


玖皎の言及はかなりしつこく続き、それを流し続けた結果、彼の機嫌を損ねる結果となったのだ。


直接聞いたわけではないが多分、玖皎は阿毘たちを嫌っている。


なので多分、というか八割方は、玖皎の阿毘に対する私怨がこもっているのだろうが。


嫌いなものからあれこれ口出しされて面白く思わない気持ちは理解できないわけではない。


が、それに巻き込まれるのは御免だ。


玖皎には悪いが、この先も話さないつもりでいる。




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