雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
少しだけ嫌味を込めて言ってやると、來世は奥歯が見えるくらい大きなあくびをした。
まだ完全に寝癖のとれていない髪をわしゃわしゃと掻く。
「あー、行哉に起こされたんだよ。
あいつ普段はあんまり絡んでこないくせに、早く寝ろだとか早く起きろだとか、兄貴じゃなくて母ちゃんかっつの」
最後のところで來世がまた大あくびをする。
反対に行哉は朝に強いらしい。
夜更かししがちになるのが大学生だとどこかで聞いたことがあるが、彼は規則正しい睡眠リズムをつくれているようだ。
「……とことん正反対な兄弟よね」
「ここまで似てないってのも逆に面白いよな。
まあだからケンカとかしないんだけどよ」
確かに、長い付き合いだけれど、來世と行哉がケンカしているところをほとんど見たことがない。
男兄弟なら殴り合いの一つや二つは当然だと以前のクラスメイトの男子が話していたが、辻森兄弟は例外のようだ。
「最後にケンカしたのっていつ?」
「えー、いつだっけ……小学校卒業する直前ぐらいかなぁ。
行哉が反抗期でおれとあまりしゃべらなくなってよ、それが嫌になっておれがキレてしつこく付き纏って行哉をキレさせた」
「何してんのよ、あんた」