雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「それはおれも思う、でもあのときは寂しかったんだぜー?
小学生なんて甘えたがり、構われたがりじゃん、友達の前だとカッコつけてそんな素振り見せないだけだよ。
今は別にこのくらいの距離感でいいんだけどさ」
「へえ、キョウダイってそういうもんなの?」
「人によるけど、ウチはこんなもんだな」
「ふぅん……」
一人っ子は兄弟に憧れを抱く。
思葉も例に漏れず、羨ましいと感じた時期があった。
そもそも思葉は、祖父以外の家族の感覚をあまり知らない。
物心つくかつかないかの頃から人には観えないものが観え、そのために周囲の人間だけでなく実の両親にさえも気味悪がられ、半ば厄介払いのように永近のもとへ引き取られたのだ。
母親とは、半年に一度だけ手紙のやり取りをしている。
でもその文章はとても他人行儀で、肉親へ宛てる調子からは程遠かった。
手紙で妹がいることを教えられたから、厳密にいえば思葉は一人っ子ではない。
けれど見たこともない人を妹という存在とは捉えられず、その子は血のつながりはあるけれど思葉にとっては他人同然だった。
生んだ子より抱いた子、ということわざに似た感覚だろう。
家族の元にいるということは、思葉とは異なりその子は普通の人のようだ、それだけは確からしくてほっとした。