雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
思葉が眉間にシワを寄せて少しだけ離れると、來世が心外だと両腕を無意味にばたつかせる。
だが、その手が途中でピタリと止まった。
視線は思葉の向こう側へ流れている。
「なに?」
「あれ、矢田だ」
振り返ってみると、歩いている生徒の中に、髪を4つに分けて結んだ特徴的なヘアスタイルが目に入った。
周りの生徒で結っている人が誰もいないせいか、かなりの異彩を放って見える。
横顔はかなりぼうっとしていて、心ここにあらずという言葉が当てはまった。
「あいつ、本当に男が何話してもガン無視なんだってさ。
西田たちが試したけど、目も合わしてもらえなかったんだってよ」
「クラスメイトで遊ぶんじゃないわよ……」
かなりやんちゃで有名な、昨年も同じクラスだったサッカー部員の名前に思葉は顔を渋らせる。
こうして遠くから様子を眺めるのは好きじゃないので、すぐに矢田から視線を外して、まだそちらを見ている來世の腕を叩いた。
叩かれたところをさすりながら、來世が思い出したように言う。
「そういやあ、矢田ってオカ研だったよな?」
「え?多分そうだと思うけど、それがどうかしたの?」
尋ねると、來世は軽く周囲を見てから少し身をかがめてきた。
いくらか声を落とす。