雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
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今日も矢田は徹底して、男性教師とは一切口を聞かなかった。
目すら合わせようともしていなかった。
瀬尾から事情を聞いていたのか、今日の3組の授業を担当した男性教師は皆、矢田を気にしているようだった。
直接理由を尋ねた教師もいたがやはり矢田は無視。
そんな彼女の様子を見て、やんちゃな生徒たちはひそひそと耳打ちし合って楽しんでいた。
思葉も授業開始直後は矢田の様子を見ていたが、途中からは教科書の内容に集中していたので、昨日のように嫌な感じをおぼえることはなかった。
「昨日は何の冗談かと思ったけど、あれはガチっぽいよね。
男嫌いが酷くなるとあんな風になるもんなのかなぁ……ずっとあんな調子なのかな、矢田さん」
お弁当をつつきながら実央がそんなことを言い、それは難しいだろうと思葉は感じた。
いくら嫌いだからと言っても、一切の接触を絶とうとするのには無理がある。
特にここは学校、教師を含めて男性の方が割合が高い。
男性だからといって教師の言葉も指示も聞かず、ずっと俯いていいわけがない、絶対に波乱が起こる。
「矢田がどうしても嫌なら別にいいんだけどさ、うちらにまで火の粉が掛かったら迷惑じゃね?」
と、前の席の女子が友達同士で話すにはやや大き過ぎる声で話していた。
そのとき、教室の空気がまとまったように感じた。
考えることは皆同じだ。
巻き込まれるのは嫌だから、しばらく度の過ぎた悪ふざけが起きることはないだろう。