雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
廊下に出ると、窓から差し込む西日で空気はきれいな橙色に染まっていた。
いつもより一層きれいに見えて、なぜだか怖さをおぼえる。
軽く背を丸めて胸元に手をあてたとき、今朝まであった感触がないことに気付いた。
思わず足を止めて「あ」と声を出す。
「しまった……匂い袋、ロッカーの中にしまいっぱなしだ」
4校時の体育の授業で着替えてから、首にかけなおすのをすっかり忘れていた。
普段からネックレスやブレスレットなどのアクセサリーの類を身に着ける習慣がないせいもある。
昨日の轉伏からの忠告を思い出し、思葉は一気に不安になった。
早く取りに行こうと、教室ではなくロッカールームを目指す。
急いで階段を駆け下りていく――その途中で、異様な光景を目撃した。
2階と3階の間の踊り場の隅に、うずくまっている女子生徒がいる。
4つに結んだ髪、矢田だった。
額を壁にこすりつけ、両腕はお腹を抱えるようにしている。
思葉は慌てて矢田に駆け寄ろうと走り出した。
いくら接点のないクラスメイトでも、苦しんでいるところを見て慌てない人間がどこにいるのだろうか。
「矢田さん、どうしたの!?」
階段を駆け下りながら、空いている左手を伸ばす。