雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
そのとき、目の前を眩しい光が一閃した。
それが何なのかを考えるより早く、手のひらに焼け付くような熱が噛みつく。
「痛っ……!?」
思葉は足を止め、腕を引っ込めて左手首をおさえた。
手のひらを見ると、感情線に重なるようにして赤い線が走っている。
しかし、それは瞬きをした直後――消えた。
おぼえたはずの痛みも掻き消えている。
目を凝らしてみても、触ってみても、手のひらの肌は無傷できれいだった。
(え……今の、何?)
戸惑いが脳内を駆け巡る。
心音が速まり、冷や汗がにじむ。
「皆藤さん」
突然声をかけられた。
ハッとして顔を上げると、いつの間にか目の前に矢田が立っていた。
こうして彼女と対面するのは初めてだ。
そばかすの目立つ、純朴そうな顔立ちをしている。
矢田はじっと思葉を見つめていた。
その双眸には優しげな光を宿しているが、どことなく不気味さを感じさせる。
しかも目線が、思葉を見ているようで見ていない、遠くを見ているような感じがした。
ぞくり、と、悪寒が走る。
「皆藤さん……どうしたの?何かわたしに用事?」
矢田が軽く首を傾げる。
怪しげな光が水面のように揺れ動く。