雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
傷
校門を離れ、商店街に差し掛かったところで、思葉はいったん足を止めた。
走ったわけでもないのに足が痛い。
思わずその場にしゃがみこんで息を吐き出す。
軽くめまいがした。
片手で額をおさえ、もう一方の手で匂い袋をにぎりしめる。
(もう、何なのよさっきのは一体……)
不可解すぎて、恐怖を通り越して怒りさえ湧いてくる。
矢田ではなく來世だったら確実に一発蹴りを入れていた。
両方の二の腕をさすって立ち上がる。
早くもっとも安心できる家に、永近の張った結界の中へ逃げよう、あれこれ考えるのはその後だ。
頭を振って歩き始めたとき、後ろから自転車のタイヤの回る音が聞こえてきた。
「思葉ちゃーん」
呼ばれて振り返ると、今歩いてきた坂道を実央が自転車で下ってくるところだった。
実央は思葉の脇で停止し、自転車から降りる。
「実央さん、あれ、家こっちじゃなかったよね?」
「今日は塾なの。
だからこれから駅前に出勤、途中まで一緒に行こう?」
「いいけど、大丈夫?間に合う?」
「ちょっとくらい遅刻しても平気だよ、先生緩い人だから」
「そうなんだ」