雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「そこまでは考えてないけど、でも県外には行かないと思う。
一人暮らしって憧れるけど不安だからね」
「あーそれは分かる、全部一人でやんなきゃだもんね、生きてけるか心配になるよ」
それもあるが、思葉にはそれよりも大きな心配があった。
もちろん、永近の護りがなくても生きていけるのか、という問題である。
せめて卒業するまでには自立したいものだが、難しいところである。
彼女のそんな事情を知らない実央は、丁寧に編み込んだ前髪にそっと触れた。
「だけど、あたしは一人暮らししたいなぁ。
実家生になるとだらけるのが目に見えてるもん。
一人暮らしもその可能性高いけど、自分で何とかしなきゃって思うじゃん?」
「それじゃあ、どこの大学に行こうかもう考えているの?」
「国公立はどこも高望みっていう問題がありましてねぇ、難しいんですのよ、現実問題。
あたしなんて、レッスンだけじゃなくてアサちゃん(音楽の先生のあだ名だ)に個人ボイトレお願いして特訓してもらって、ようやく実技試験で披露できるかなってレベルだし」
実央が片足を大きく動かし、アスファルトの上の砂粒を蹴り飛ばす。
高望みだと諦めたように言っているが、その横顔は何だか煌めいている風に見えた。