雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕





曖昧ではあるけれど実央は自分が歩みたい道を見つけている。


だから、輝きがある。


思葉にはまだそれが見つけられていない。


まだ焦らなくても大丈夫ではあるが、それでも、少しずつ考えていかなければ。



(その選択肢を少しでも広げるために、みんな勉強するんだよね)



テレビのCMでよく流れる個別指導塾の黄色い看板を見上げながら、思葉はそう考えた。


だから家族も教師も、周りの大人は口々に「勉強しろ」と言う。


教育方針は異なるが、根本は同じだ。



「……矢田さんがね」



ふいに実央がいくらか声のトーンを低くして話し始める。


矢田の名前に思わずドキリとしたが、どうやらそういう話ではないようだ。



「去年のコンクール前にあたしが音楽室でソロの自主練してたときにね、廊下で聞いてくれてたの。


声が聞こえてきたからって、素通りしないで寄ってきてくれて……でもあたし矢田さんがいたことにすぐ気づかなくてさ。


ほら、音楽室のドアの窓って磨りガラスでしょ?


そこに人影だけ出来てるのに気づいて『うわっ、誰!?』って思って慌ててドア開けたんだよね。


部員じゃない人に練習してる声を聞かれるのってちょっと嫌だし、それを聞いてからかってくる先輩もいたから怒るつもりで行ったんだけど……」




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