雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
そこで一旦、実央の足が止まった。
思葉も立ち止まって振り返る。
実央は足元に視線を彷徨わせていたが、つ、と顔を上げるとふにゃりと笑った。
なんだか泣きそうな笑顔だった。
「矢田さん、泣いてたんだよね。
あたしの歌声がすごくきれいで澄んでいて、思わず聞き入っていたら涙が止まらなくなったって、泣きながらそう言ってくれたんだ。
もう嬉しすぎてびっくりしたよ、あたしの声に感動してもらえるなんて夢にも思っていなかったから……」
実央の歌声は奇麗だ、でもそれだけではない。
聞いている相手の心へ訴えかけるような旋律を奏でるのだ。
それは他の生徒が歌っている中でも、完全に埋没することなく、かといって和を乱すこともなく届いてくる。
初めて実央の歌声を聞いたとき、思葉はしばらく鳥肌が止まらなかった。
綾乃も隣で感嘆の息を漏らしていた。
矢田は、その強い波に涙を零したのだろう。
「それがきっかけで、音楽に進むのもありかなーって考えるようになったんだ。
でも飛び抜けた才能も持っていないし厳しい世界だから、親はまだ反対してるんだけどね。
……だけど、あたしの歌声でたくさんの人の心を動かすことができるかもしれないって思うと、諦めたくないんだ。
矢田さんとはそこまで仲良くないけど、でも、あたしが行きたいって思う道を見つける手助けをしてくれたから、すごく感謝してるの」
そう話す実央の口調は、どこか悲しさを帯びていた。