雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
再び進み出した足取りは重たくて、なんだか沈んでいるように見える。
「……心配だなぁ。どうして、あんな風になっちゃったんだろう」
思葉は何も言えなかった。
こういうときほど、曖昧な返事が失礼になるときはない。
軽く唇を噛んで目を伏せると、今朝來世が話していたことを思い出した。
そして先ほどのことも。
話すつもりはなかったが、実央と矢田との関係を知って尚更、口にすべきことではないと判断した。
「ねえ、思葉ちゃんはもう聞いた?オカ研の噂」
「うん、今朝來世に教えてもらったよ」
「うわっ、辻森に先を越されるとか屈辱でしかないんだけど」
実央が大げさに鼻の頭にシワを寄せるものだから、思葉はつい笑ってしまった。
気分の切り替えが早いのが実央の長所である。
早すぎて、たまにテンションが追いつかないときもあるのだが。
「それなら、唐津先輩の様子がおかしいってことも聞いてる?」
「からつせんぱい?」
聞き覚えのない名前に思葉は首を傾げる。
それを見てまだ知らないのだと判断し、実央は大きく頷いた。
「3-4の唐津涼子(りょうこ)先輩、オカ研の部長だよ。けっこう美人で有名。
でもちょっと電波なところがあってモテはしないみたい。
そもそも女所帯のオカ研をまとめてる人だし、いつも難しそうな怪しげな本ばっか持ち歩いているから、とっつきにくい感じはあるんだけどね」