見つめないで勉強しなさい! ~一途なチャラ男くんに愛されました~
「そ、そやってクサいこと言って女の子をたくさんだましてるんでしょ?嘘つき…!私はそんな簡単にひっかからないんだから」
「嘘つきなんかじゃねぇよ。俺をみくびんな」
低い声。
背筋が冷える。
情けないくらい、声が震える。
「あ…あんたみたいなチャラ男、ぜんぜんタイプなんかじゃないんだからっ」
「俺だってあんたみたいな地味な女、好みじゃないよ」
「…なっ」
「でも、好きになっちまった」
「……」
「本気で好きになっちまったんだ」
責任取れよ。
吐息に近い声と一緒に、多希がゆっくりと身をかがめて―――。
…まぶしい…。
強い陽射しが肩越しから差し込んで、私はとっさに目を閉じた。
唇に確かな弾力を感じて―――
意識も真っ白になった。
(う、そ…)
出逢って、数分しか経ってない。
なのに。
なのに…。
キス、されてしまった―――。
「勉強もあんたへの想いもマジで本気。絶対に諦めない」
そう高らかに宣言したと思ったら、多希は不意にニッコリと表情を崩した。
「覚悟してね。必ずものにするよ」
そして、両手を扉から離して、くるりと踵を返した。
茫然となる私に、また夏の陽射しが降りそそいだとたん、思い出したかのように、身体中が火照りだした。
「も…もう二度とくんな!チャラ男!!」
蝉の声が、相変わらずやかましく聞こえていた。
狂ったように高鳴る鼓動と、どちらが騒々しいだろう―――。
ゆうゆうと去っていく背中がだいぶ遠くなったところでやっと捨てゼリフを吐くと、私は会館に逃げ戻って固く扉を閉めた。