初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
 
百井くんにとっては、もしかしたらさっきから思い出せなくて困っていたことかもしれないけれど、わたしにとってはまったく脈絡のない質問で、だから百井くんの意図するところが不明なんだけど。

でも、だんだんと百井くんの表情が早く言えやという顔になってきて、意味がわからなくても答えなきゃいけない感が波のように押し寄せる。


「に、にいな、だけど……?」

「漢字は」

「杏仁豆腐の〝仁〟に菜っぱの〝菜〟」


申し遅れました、わたし、2年C組32番、百ノ瀬仁菜と申しますけれども……って、どうしてここで自己紹介的な雰囲気になるのだろうか。

趣味とか、特技とか、好きなアイドルグループとか、そういう細かいところも言ったほうがいいの? 一種無駄っぽい情報、いる?

どこまで自己紹介したらいいのかと、乏しいことこの上ない百井くんの表情をうかがい、彼の気持ちをなんとか汲み取ろうと試みる。


「ニナでいいか」

「仁菜だってば‼」

「百ノ瀬長い。仁菜も長い。ニナにしろ」


が、勝手に改名させられる。

ずっと百ノ瀬って呼んできたのに、今さら長いってぶっちゃけるって、どうなの……。

でも、最終的に折れるのはわたしだ。
 
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