初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
持ち主の名前がないんだから、絵で判別するしかない。
それに、どっちみち、スケッチブックを預かった美術部員は、持ち主を特定するために中身を見なきゃいけないんだから。
少しの好奇心や冒険心が、さらにわたしを後押しする。
そうして、いろいろと自分に言い訳をして、そのまま床に座り、スケッチブックをひざに乗せる。
「失礼しまーす……」
黒色の表紙に指をかけながら思わずそう言ってしまうのは、どうしてだろう。
良くないことをしているという後ろめたさがあるなら最初からやらなければいいのに、結局は見たい気持ちには勝てないのだから、わたしもなかなか悪い性格をしている。
さて、どんな絵が描いてあるのかな。
表紙を開き、モスグリーンの補助紙をめくる。
と、その瞬間、わたしの目は釘付けになった。
「わぁ、すごーい……。きれい……」
紙いっぱいを使って描かれていたのは、繊細なタッチで描写されたひとりの少女の横顔だった。
水彩絵の具で淡く彩られた少女は、視線を斜め上に向け、なにかをじっと見つめている。
それがなにかは、わたしにはわからない。
けれど、なんとなく好きな人を見上げているような気がして、相手の姿をぼんやりと想像してしまう。