初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
 
「すみません先輩、わたし、教室に忘れ物をしたの、急に思い出しちゃって……。今日はもう、このまま帰ります。お疲れさまです」


さっきとは違う居たたまれなさを感じて、早口でそう言うと逃げるように椅子から腰を上げた。

「あれ? もう帰るの?」と、そこでようやく顔を上げた部長と副部長に「そのうちまた顔出します!」とぺこりと頭を下げ、慌てて部室を飛び出す。

美遥先輩は「お疲れー」とだけ言うと、いつもと変わった様子もなく、ただにこにこ笑って手を振ってくれたけれど、なんだかこっちは変に心臓がバクバクだ。


「逃げたって思われたなぁ、完全に……」


なかなか治まらない心臓の鼓動に制服の上から手を当てながら、そうぼやいて廊下を進んでいく。

教室に忘れ物があるなんて、あの場から逃げ出すためにとっさについたうそだ。

ここ最近では家に帰るにはまだ早い時間だけど、もういっそ本当に帰ったほうがいいかもしれない。

けれど、そう思った矢先、あのあとの百井くんと実結先輩のことが妙に気にかかってくるものだから、もう本当に自分自身の気持ちの揺れにわけがわからなくなる。

それでも、一度気になりだしたら、いてもたってもいられなくなってしまって。
 
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