初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
「まだいるかな……」
若干息を切らしつつ、鞄から折りたたみ傘を出したわたしは、美術室の古びた引き戸に手をかける。
けれど――ガタン。
美術室にはしっかりと鍵がかかっていて、百井くんは一足先に切り上げたのだとわかっただけだった。
「だ、だよねー……」
引き戸から手を引っ込め、それをきゅっと握りながら、自分を納得させる。
……連絡先の交換もしていないわたしたちが、どうして帰る時間を一緒にできるというのだろう。
昨日まで百井くんと一緒に帰っていたのは、単に百井くんにつき合いたかったから。
帰るタイミングがわからないふりをして、切り上げるまで待っていたかったからだ。
「……失恋って、こんな気分なのかな」
ぽつりと独白をこぼし、ふたりで入るにはお世辞にも十分とは言えない傘を見つめながら、とぼとぼと廊下を引き返す。
恋はよくわからないままだけど、言葉にするのも難しいような感情がどっと押し寄せて、わたしの歩調を否応なしに遅くさせる。
わたしもそろそろ帰らないと本格的に雨に降られてしまいそうなのに、足が、体が、焦る気持ちに反して言うことを聞いてくれなかった。