斬華
 考え、由之介は屋根伝いに外を走った。
 見たところ、店全体を取り囲むような大事(おおごと)ではないようだ。
 そもそも人違いだか勘違いである。

 加勢に十数人来たのも、男たちの運が良かったのだろう。
 そのお蔭で多大な犠牲を出すことになったのだから、運が良かったとは言えないかもしれないが。

 店の裏手に飛び降り、中を窺う。
 階段の上に、人だかりが出来ていた。

 剣戟の音が聞こえる。
 ということは、まだ宗助は生きている、ということだ。
 由之介は裏口から足音を忍ばせて飛び込んだ。

 その時、階段の上から宗助が剣を合わせたまま、男と共に落ちてきた。
 血で滑ったらしい。
 由之介は二人に駆け寄り、素早く宗助に刀を突き刺そうとしていた男の頭に突きを見舞った。

「由之さん! 危ない!」

 再び聞こえた華の声に、はっと顔を上げれば、男が一人、刀を振り被っていた。
 咄嗟に宗助の横に倒れた先程の男から引き抜いた刀で受け止めたが、由之介の刀は、それまでの乱闘でぼろぼろだった。

 降ってきた刀に、あえなく折れる。
 勢いは殺されたが、受け止め損ねた刃は、由之介の肩に食い込んだ。

「うっ……」

 由之介の顔が歪む。
 傷は身体のあちこちにあるが、気付かないうちに付いた傷に関しては、戦っている間は気にもならない。

 だがこの傷は、そのようなかすり傷ではない。
 腕を、血が伝うのがわかる。

 再び刀を振り上げた男に、由之介の視線が動いた。
 刀は折れてしまった。
 他の何かを探さねば。
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