斬華
「宗助。具合はどないや?」

 ぬるい風が吹き抜ける路地を歩いて、宗助の元を訪れた由之介が、酒瓶を片手に顔を覗かせた。

「もうすっかりや」

 頭にサラシを巻いた宗助が、部屋の隅で胡坐をかいている。
 由之介は宗助の母親が淹れてくれた茶を飲みながら、五郎の容体を話した。

「結構深い傷でなぁ。まだ動けんちゅうこっちゃ。ま、五郎の家は薬屋やし、傷に関しては詳しいから大事ないやろ」

「お前の肩も、大丈夫なんか」

「幸い筋には影響ない。五郎のおばちゃんに薬も貰ったしな」

「まぁ、よぅ切り抜けられた思うわ」

 ふぅ、と宗助が息をつく。

「確かにの。お前はほんま、ヤバかったな」

 ちらりと由之介は宗助を見た。

---華ちゃんは、宗助を好いてるんやな。必死やったもんなぁ---

 己の身を盾にしてまで、宗助を助けようとした華を思い、由之介は少し、心がざわついた。

「けど最終的に、一番の傷を負ったのは五郎やな。まぁあいつは、華ちゃんのこと好いとるからなぁ」

 そんな由之介の心にも気付かず、宗助が淡々と言う。
 五郎は二人ほど遣い手ではない。
 一番おっとりとしていて穏やかだ。

「華も斬られんで良かったわ。全く、無茶しよる。相変わらずあのお転婆は手におえんな」

 宗助の口振りからは、華への気持ちはわからない。
 まぁええけど、と由之介は、持ってきた酒を、どん、と宗助の前に置いた。

「とにかく皆無事で良かった。これは別に、お前の消毒用やないで。快気祝いや」

「おお、ええな。ほんなら五郎が動けるようになったら、今度は五郎の家でやるか」

「五郎が治ったら、今度こそ鶴の屋でぱぁっとやろうや。華ちゃんも呼んでな」

「そうやな。結局華ちゃんとは、大して喋ってへんわ」

 ははは、と笑いあい、由之介と宗助は、互いの湯呑に酒を注いだ。


*****終わり*****
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