斬華
「おばちゃん、華(はな)ちゃんは元気か?」

 元々この店は、この三人の溜まり場だ。
 幼い頃からの付き合いで、もうかれこれ六、七年になる。
 由之介と宗助、五郎の悪ガキ三人と、ここの一人娘の華の四人で、この座敷で遊びまわったものだった。

 もっとも男子は十二歳ほどになると、俄然剣術に没頭し、華と遊ぶことも、そうなくなったのだが。

「元気ですよ。けど最近皆が来てくれへんからって、むくれてますわ」

「華ちゃんは、この鶴の屋の看板娘やないか。そんな子と変に付き合うたら、界隈の男の視線が痛いわ」

 華はなかなかの器量よしなもので、この鶴の屋には彼女目当ての客までいるという噂だ。
 普段は華も、店を手伝っているのだが。

「で、俺らには、むくれて顔も見せてくれへんのかい」

 由之介が言うと、女将は渋い顔になって首を振った。

「今日は特別、部屋に籠ってます。最近、こういう小料理屋は危のぅて。ちょっとしたお侍が何人かで宴でもしようものなら、すぐに踏み込まれたりするんどす。お侍らも、最近はちょっとしたことで、すぐに刀を抜きよるし。今日はお客も多いですし、いつ何時争いになるや、わからしまへん」

 ふーん、と由之介は顎を撫でた。

「折角の祭やいうのに、つまらんな。でも仕事せんのやったら、丁度ええ。ここで俺らと楽しもうや。久しぶりに華ちゃんも入れて、双六でもやろうや」
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