斬華
「五郎!」

 叫ぶなり、宗助が膝頭にあったお猪口を男に投げつけた。
 その隙に、五郎は身を屈めて刀から逃れる。

「何じゃ、お前ら!」

 片膝を立てた由之介が、脇に置いていた刀を掴んで叫んだ。

「問答無用じゃ! この奸賊が!」

 ばらばらっと男たちが座敷に入ってくる。
 五人。

 市中を巡回しているという佐幕派か。
 市中に入り込んでいるという攘夷派か。
 どちらにしろ、敵対する者として、由之介らを斬る気だろう。

 誤解は誤解だが、今更そんなこと聞く耳も持たなそうだ。
 すでに五人とも抜刀している。

「やるしかないようやな」

 かちん、と由之介は、鯉口を切った。
 今この京では、このような斬り合いは珍しくない。
 普通に道を歩いていただけでも斬られるのだ。

 人違いで斬られるなど日常茶飯事。
 ちょっとした会合を開けば、たちまち攘夷派の集まりだと言って踏み込まれるのだ。

「俺らは攘夷派やない……と言ったところで、信じへんやろな」

「当たり前だ! このような目立たぬところで、女子もろくに相手にせず集まりを持つなど、胡乱な話し合いをしていたに決まっている!」

 先頭の男が、声を張り上げた。
 なるほど、単なる宴席にしては、酌をする女子の数が少なすぎるわけだ。
 それこそ攘夷派の秘密会議のようだろう。
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