Secret Mission
適当な理由をつけてスリッパを借りる了承を得た水樹は教室に向かっていた。
「どうするかなぁ。どうせあの不良たちだろうし…。
渡辺祐一は元々熊野さんに頼まれていたが…他の奴らがどうも鬱陶しい。
あの不良たちが夜どこに居るのかを調べて、絞めておこうか…。」
なんて言う物騒な考えをこぼしながら、上の空で水樹が歩いていると…
――ドンッ。
一人の男にぶつかった。か弱な演技をするためか、水樹はわざとらしく転ぶ。
「ったた…。ご、ごめんなさい……。」
「いや、気にすんな。それより、大丈夫か?」
「ひゃい!だ、大丈夫ですっ…き、気にかけてくれてありがとう、ございますっ!」
水樹は男が差し伸べてくれた手を取り立ち上がり、一応制服が汚れたりしてしまったら大変なのでポンポンっと払う。
そして、ペコリと頭を下げる。
「いや、ごめんな?少しボーッとしてて…。」
「い、いえ、僕もボーッとしてたので……。」
ゆっくりと頭を上げ、誰なのか確認する。
「……あの、どこか出会ったことありますか?」
「いや、初対面のはずだが…。」
「そうですか、勘違い、ですかね!ご、ごめんなさい。」
「なんでそんなに謝るんだよ…。」
―――初対面、ね。……どこか出会った気がするけど、俺今変装してるからなぁ。わからないのも無理はないか。
「あっ!」
「へ…?ど、どうかしましたか?」
―――まさか、変装バレたのか?…やっぱり、会ったことあったのか…?
「や、大したことじゃないんだが…お前、転校生だろ?」
「あ、は、はい。そうですけど………。良かった。」
ボソリと安堵のため息とともに呟く。
「やっぱりか!俺、2のCの千葉春っていうんだ。春って書いてハジメだ。」
「え、珍しい名前、ですね?……あ、熊野水樹…です。」
「そうか、水樹っていうのか、体育の時とか一緒になるはずだから、よろしくな?」
「え、あ、はい、よろしくおねがい、します?」
――キーン…コーン…カーン…コーン…。
HR始まりのチャイムが学校全体に鳴り響く。
「あ、やべ…。じゃあな、熊野!」
「あ、また?」
高速で立ち去っていく千葉を見つめながら、水樹は呆然としていることしか出来なかった。
「…なんだったんだ。」
一分ほど、立ち止まっていると、先生に「教室にはいれー!」と叫ばれ、教室に入ったのだった。