Secret Mission
昼休み
「あ、いいなぁ、そのエビチリ。」
ある日の昼休み、水樹は翔とその友だち―燈蔭と和人という二人の男だ―と共に昼食をとっていた。
そして、燈蔭は水樹の弁当に目を付けた。
彼は元々パンだけだったため、お腹が膨れてないという事もあったのだろう。だが、それだけではないことは確かだった。
なぜか、それは彼がそのエビチリから一度も目を離さなかったからである。
「あ、えっと…欲しいんですか?」
「うん、ほしい!」
「……あげません。」
水樹が意地悪をしてみたくなり、そんなことを言いながら弁当を上にあげても燈蔭は立ち上がりそのエビチリを見つめる。
多分、誰もが思ったであろう。
正直言ってその食い付きぶりは気持ち悪い、と。
それはこの場にいた者達の思いだ。
「…わ、かりましたから、そこまで見つめないでもらえませんか…?」
「早くっ!早くっ!」
水樹が若干引きながら差し出す。
だが、燈蔭は水樹の表情などお構いなしにパクっと食い付いた。
「んー!うんまい!」
「あはは…それは、良かったです。」
「燈蔭って、エビチリ好きなのか?」
翔がそう聞くと勢い良く頷き、「大好き!」と、答えた。
「なるほど…だから、そんなに食いついていたのだな、燈蔭は。」
手を合わせ、「ご馳走様」と呟き箸をおいた和人は呆れながらそう言った。
「そ、そこまで食いついてないよ!」
「いや、凄かったぞ。」
「えー…。」
などという会話を燈蔭と翔がしている中、水樹は和人に問いかける。
「あの、和人さんって、何か…ええと、例えみたいなものですけど歌舞伎とかやってたり…するんですか?」
「何故、そんな話をする?」
「いえ、何だか、すごく礼儀正しいと思ったので…。」
「なるほどな。いや、歌舞伎などはやっていない。俺の家系がただ口煩いだ
けだ。」
「そうだったんですか、尊敬します。僕、そんなに礼儀正しくないので…。」
水樹は俯く。まるで、それがダメなことだと思っているかのように。
「尊敬って…そんなに良いことではないぞ。それに、俺は俺、水樹は水樹だ。1人1人個性があるからいいのではないか。」
「……そう、ですね。」
目を伏せながら、食べ終わった弁当を仕舞う。
「あの、ちょっと、トイレに、行ってきますね。」
「ん?あー、いってらっしゃーい。」
翔が水樹に手を振ると、水樹も手を振り返す。
そして、教室から出て行った。