Secret Mission
その後、水樹たちは普通に授業を受けた。
100mのタイムの一位は水樹と悠斗だった。0.1秒の差もなくぴったりでゴールしたのだ。
「水樹、お前、速くなってね?」
「そんな事は無い。ゆーちゃんが遅くなっただけじゃないか?」
そう、水樹は謙遜するが、本当に速くなっている。
悠斗は前からタイムは変わってない。
だが、水樹は中学の頃より二秒近くタイムが縮まっているのだ。
水樹と悠斗は、今、トイレにいる。
それは水樹が着替える為というのもあるが、人が余り来ない場所に来たかったのだ。
それもその筈、水樹にとってこの青年は自分の事をこの学校で唯一知っている男であり、他の奴らに知られてはならないことを知っている男なのだ。
「おい、お前。本当に瑞稀なんだよな?」
そう、疑っている訳でないのだが、会えたことが嬉しいのだろう。水樹の頬を引っ張りながら悠斗は問う。
「ふぉい、ふぇめぇ、ひっふぁんなよ。」
「おい、てめぇ、引っ張んなよ。」そう言いたかったのだろうが、なんと言ってるのかよく聞き取れない。
だが、悠斗には何となくわかったのだろう。
いや、分からないとおかしいというものだ。額に青筋が浮かんでいるのだから。
「ははっ、わりぃわりぃ。」
詫ている様子もなく、パッと手を離す。
水樹は強く引っ張られた頬を擦りながら、個室に入り着替え始める。
「証明するものは生憎持ってないが、声や顔、身体つきとかでわかるだろ。」
「いや、まぁ…そうなんだけどな。」
悠斗ともここで着替えることにしたらしく、個室のドアを開き、鍵をかけ着替えた。
「で、だ。お前、なんで男の格好してんだ?」
「話せば深い訳があるんだが…。まぁ、趣味兼仕事って感じだな。」
それに、顔つきが男寄りだから目立たない為にも、な。
そう付け加え、水樹は個室から出る。
それにしても、凄い着替えの早さである。
といっても、これはただ効率よくしたに過ぎないが。
「趣味は置いといて…仕事?」
「ああ、簡単に言えば、探偵のまがい物だ。」
「ふーん…高校には進学しなかったのな。お前の物覚えの良さなら良い所いけだだろうに。」
「仕事上、潜入したりだとかもあるからな。楽なんだ。」
水樹はやっと出てきた悠斗に丸の形を見せながら一言付け加える。
「…それに、コレもいいんだ。」
丸…つまり、コイン……お金だ。
それを見た悠斗は前から変わってねぇな。と、頭を抱えるほどの悪い顔をしていたとか。