【完】僕と君のアイ言葉
挨拶なんてされる訳がないと思っていたから思わず彼を見入ってしまう。
「おはよう」
田中くんは聞こえていないと思ったのかもう1度、今度は私の目を真っ直ぐ見て言った。
「…お、おはよう……」
しどろもどろしながら挨拶を返すと、彼は一瞬口元を緩めていた気がした。
気のせいかもしれないが…
微笑んだように見えたんだ。
この間から田中くんのことが益々分からない。
顔に考えていることでも出てきてくれたらいいんだけれど…
そんなことは彼に1ミリたりとも無いから仕方がない。
私は考えてもキリがないと思い、慌ただしく鞄から教科書を取り出すと、柄にも無く勉強を始めた。
朝からテストでも無いのに勉強をするとか…
私の人生初めてだ。
そして隣の田中くんの存在を打ち消すかのように数式を解いていく。
賢かったらスラスラ解けてカッコイイんだろうけれど…
1問解くのでやっとだ。
「ねぇ」
なのに隣から声をかけられた。
彼の存在を気にしないためにやっていたに…!!
それなのに、それなのに!
田中くんに話しかけられたら元も子もないじゃない!!!