【完】僕と君のアイ言葉


夏はまだまだ始まったばかり。



そんな私の視界の隅に、数学の教科書にラクガキをしている彼の姿が入ってきた。



「な、なにしてるの?」



ボリュームを落とした声で尋ねる。

すると返事の代わりにシャーペンでラクガキをした箇所をトントンと示した。



〝僕、後悔してる〟



こう…かい……?



突然そんなことを言われても。

返答に息詰まっていると、彼はまたなにか書き始めた。



〝だから、頑張るんだ〟



頑張るって…



〝なにを?〟



〝ナイショ〟



…内緒って…すごく気になるんだけど!!

そんな私とは真逆の表情を田中くんは見せた。

なんかスッキリしたような清々しい顔をしている。



数学の教科書には、微妙に綺麗な田中くんの文字と私の丸い文字。

なんだか前より距離が縮まっているように感じたのは気のせいだろうか。



けれど。



今の私には宙という存在がいるんだ。

距離が縮まろうがなんだろうが、私は宙を好きにならなくちゃならない。

宙を1番に思わなくちゃならないんだ。

宙に…悲しい思いはさせてはいけない──

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