わたしはみんなに殺された〜死者の呪い【後編】〜
ヒカリ
「…………………」
「…………………」
泣いている悠人くんはまだ走れないだろうと判断した私は、生徒玄関から少し離れた2階の、3年生の教室で身を潜めることにした。
この数分間、悠人くんは一言も言葉を発しない。
隠れている間に、歩がご逝去したというアナウンスが流れたけど、悠人くんは膝を抱えたままそれを聞き流した。
でも…数分でアナウンスが流れたと言うことは、その分長く苦しまなかった…ということだ。
そういう風に良いように捉えて行かないと、ここではきっと生きていけない。
「……………………俺さ」
「えっ、あ、うん?」
ずっと口を閉じていた悠人くんがいきなり話し掛けてきたから、ついびっくりしてしまった。
私の変な返事に気が回るほどまだ冷静ではないのか、悠人くんはさして気にも止めず、言葉を続けた。
「……今まで、人に簡単に死ねとか言ってたけど…」
「……うん」
確かに、悠人くんは毒舌だった。
歩以外は極力近付かないようにしていたみたいだし、私もまた、このゲームが始まった辺りでは怖いと思っていたくらい。
「…でもさぁ。
実際死なれると…悲しいんだな。
死ね、なんて本心じゃないこと…なんで言えたんだろうな。
いくらムカついてても、鬱陶しくても、他に言いたいことなんて沢山あったはずなのに」
悠人くんの背中が震える。
今までは人の死が身近になくて、その重さがわかってなくて。
それに気付いた時、言わなきゃよかったって後悔。
「…………。
今気付けたんだから、良いんじゃない?
生きてここから帰ったら、もう死ねって言うのは止めようよ。
後悔を先に繋げて生きるのが、人間だと思うから」
「………そうだな。
いつまでもぐずぐずしてらんねーよな。
ありがとう、芽衣」
「どういたしまして。
どう?もう行ける?」
「………あぁ。
集合はエレベーター前だったか?」
「………ううん。
何かあったら…音楽室って言ってた。
歩が提案した場所は、桜ちゃんの姿をした『この子』にも伝わってる。
なら石を持ってた狛くんが桜ちゃんには伝えてないであろう音楽室に行かなきゃだよね」
「……なるほど。
そういやそんなことも言ってたな…」
「えっ、まさか忘れてたの?」
「…………狛ってなんかよくわかんねーし、こんなやつの言うこと覚えとく必要もねーかなーって…」
「………………あはは」
確かに狛くん、なに考えてるかわかんないけど。
少し苦笑しながら、立ち上がる。
「じゃあ、行こっか?」
言いながら差し出した右手。
それをつかんで、悠人くんも立ち上がった。