現状報告、黒ネコ王子にもてあそばれてます!【試し読み】
お世辞ならもう少しうまいお世辞を言ってほしい。わたしは身長一五八センチで人並みのスタイル。満員電車や人混みに入ればすぐに埋もれて目立たなくなるくらいなのに。
黒原さんはわたしの警戒心を解くみたいにクスッと軽く笑った。
「うーん、スタイルというか雰囲気かな。全体のバランスが俺の大好きな女王様にピッタリだ」
「じ、女王様に、ピッタリ……?」
彼女とよく似ているって言いたいのかな? でも、彼女のことを女王様と呼んでいるとしたら……ウワサ通り変な人なのかも。
言葉の意味がわからずにいると、わたしたちを見ていた白矢木課長が近づいてきた。
「ふたりとも、いつの間に仲良しになったんですか」
「白矢木さん……じゃなくて、今は課長ですね。お久しぶりです」
黒原さんは親しみを込めた笑みを浮かべ、軽く頭をさげた。
「これからビシバシと働いていただきますよ。よろしくお願いします」
白矢木課長も嬉しそうに口元をほころばせる。昔を懐かしんでいるみたい。
「黒原くんの席は水門さんの隣です。案内してあげてください。僕はちょっと企画部に行ってくるので席を外します」
「わかりました。黒原さん、こちらです」
わたし達の横を通り過ぎる白矢木課長にうなずき、歩き出すと、黒原さんが素直に後ろをついてきた。
「よろしくね、水門ちゃん」
「ち、ちゃんっ!?」
藤本さん以外でわたしのことをそう呼ぶ人はいない。思わず警戒心をむき出しに驚くと、その反応を面白がるようにクスクスと笑われた。
「大丈夫だよ。ちゃんとTPOわきまえるから」
イタリアに四年間いたし、フランクな人なのかな。課長もすごくフレンドリーな性格だって言ってたし……。それに……そもそも変な人なんだし。
それなら仕方ない。突っ込むことはやめて、そのまま足を進めた。
「黒原さんの席はここです」
黒原さんをわたしの隣であり、藤本さんの向かいである席へ案内する。
「藤本さん、お久しぶりです」
「久しぶり、これからよろしくね。ビシバシ働いてもらうから」
白矢木課長の後輩だから気に入らないと言っていた藤本さんだけど、ちゃんと仕事の面では認めているらしく、笑顔で挨拶をした。
「黒原さん……荷物はこれだけなんですか?」
席を外している間に宅配便が到着したようで、さっきまで三箱の名刺しか置かれていなかった黒原さんのデスクには、段ボールがひとつ積まれていた。