現状報告、黒ネコ王子にもてあそばれてます!【試し読み】


「白矢木に育てられたっていうのが気に入らない」

藤本さんは『白矢木は思考が読めないし気が合わない』と普段からよく言っていた。彼はそんなことを言われているとはつゆ知らず、穏やかな顔で仕事をしている。

「へぇ、今度来る人、白矢木課長の後輩なんですか」

桃原さんは、藤本さんが拒否する理由に納得した様子だ。

「そうよ。黒原薫(くろはらかおる)くん……わたしと白矢木が仕入物流部にいるときに入社してきたの。わたしは、そのあと一年足らずでインテリア事業部へ異動になったけど、白矢木は彼の教育係だったのよ。

黒原くんは三年目でイタリア支社に派遣されて、今回の業績改革で本社に引き戻されたってわけ。初めはただのチャラいイケメンだと思ったから、まさか敏腕バイヤーと呼ばれるほどデキる男になるなんて意外だったわ」

藤本さんがサッパリと語る。そこには“ツバをつけておけばよかった”という後悔ではなく、やはり“白矢木が育てたから面白くない”という意味が含まれているよう。

わたしは藤本さんから語られる“黒原さん情報”に驚いてばかりいた。

入社三年目でイタリア支社……しかも、その働きを評価されて今度は本社に異動。絵に描いたようなエリートコースだ。

アーニーデコールはインテリアを総合的にプロデュースして、個人法人問わずいろんなお客様にひとつの空間を提供したり、国内外のいろいろな家具を仕入れ、販売やレンタルもしている。

本社、関西支社のほかにヨーロッパの家具を仕入れる拠点として、イタリア支社がある。そこで働く社員は少ないけれど、求められる利益はかなり大きく、バイヤーとしての腕が一番必要になるところだ。

そんなところで活躍していた黒原さん……きっと、すごい人なんだろうけど、藤本さんの第一印象がチャラいイケメンっていうのが気になる……。

なおも先輩達の会話は続いていて、わたしも必死に話を聞いた。

「でも、吉田くんと同期なのにスゴイですねぇ。彼も仕事ができましたけど、それ以上なんて助かりますね。いっぱい働いてもらいましょう」

できるだけ定時にあがりたいであろう新婚の桃原さんは、瞳をキラキラと輝かせ天井を見上げる。まだ現れない黒原さんの働きに期待を寄せているみたいだ。

「仕事はすると思うけど、どうかなぁ……ちょっと変だし」
「へ、変!?」

苦い顔をする藤本さんに、わたしは思わず声をあげていた。


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