現状報告、黒ネコ王子にもてあそばれてます!【試し読み】
「あー……水門ちゃん、黒原くんと仕事する機会が多そうだもんね。泣かされた女の子も多いって聞くし、気をつけて」
藤本さんは可哀そうなものでも見るような目をわたしに向けた。
「気をつけてって……そんなに危険な人なんですか?」
「まぁ、大丈夫よ。仕事は大好きなヤツだから。ただ、自由にあちこち動き回るし、容姿からしてネコみたいなのよ。あと、ビックリするような行動をとるから、それについていけるかどうかね。女性関係は、惚れなきゃいいわけだし」
「じ、自由にあちこち? ネコみたいって……?」
どちらかというとイヌ派なんだけど……って、そんなことどうでもよくて。
今のところ恋愛する気はないので惚れるのは心配してないけど、いろいろ気になる言葉が多すぎる。
しかし、仕事中なのでこれ以上雑談を続けることもできず、わたし達は無言でパソコンに向き直った。
仕事ができる変な人って、どんな人だろう。うまくやっていけるかなぁ……。
ますます“黒原さん”という人物がわからなくなる。期待と不安が入り混じる思いで、隣の席をそっと見るけど、名刺しか置かれていないデスクは“大丈夫”とも“気をつけろ”とも言ってくれない。
「水門さん、どうかしましたか?」
「白矢木課長……」
わたしが隣のデスクをじっと見つめていると、白矢木課長がこちらに歩み寄ってきた。斜め向かいの藤本さんからわずかに視線を感じる。
白矢木課長はそれに気づくことなく、穏やかな様子で口を開いた。
「吉田くんがいなくなって寂しいですか?」
「いえ、そういうわけではないんです。ただ、黒原さんはどんな人なのかなぁっと思っていただけで……」
吉田さんを兄のように慕っていたので寂しい気持ちはもちろんある。でも、会社が違うだけで同じビル内にいるし、今は黒原さんのことが気になって落ち着かないだけ。
わたしが首を振ると、白矢木課長はフッと力を抜いたように微笑んだ。
「そうですか。黒原くんは有能な人なので、きっといい勉強になりますよ。なにしろ、すでに課長昇格試験も受かっているくらいですからね」
「えっ! すごい……」
吉田さんと同期ということは今年二十九歳。白矢木課長も三十二歳で最年少課長と言われているのに、その記録を塗り替える可能性があるんだ。