現状報告、黒ネコ王子にもてあそばれてます!【試し読み】
誰か七階にやって来た……わたし達には気づかれないかもしれないけど、できるだけ早く帰ったほうがいい。
「なにを言われても、わたしはやり直す気はないから。風馬とは……別れたの。もう……行くね」
「和紗っ、ちょっと待って!」
「やっ……!」
呼び止める風馬がわたしの手首を掴む。振り払おうとすると、衝撃で涙が零れ落ちた。
わたしがイヤがっても、風馬はなかなか手を離してくれない。
どうしようかと、しばらく押し問答していると、風馬の手が誰かによって払いのけられた。
「元カレさん、フラれてるんだから諦めたらどうかな?」
だ……誰!?
風馬の手を払いのけた大きな手でガシッとわたしの肩を掴み、こちらをそっと覗き込んでくる。
「しつこい人はイヤだよね」
わっ……き、綺麗な男の人!
彼が小首をかしげると、ゆるくパーマがかかった艶やかな黒髪がふわりと揺れた。
わたしを見つめるアーモンド形の黒目がちな瞳は、色っぽさの中に人を煽るような艶を帯び、甘い声で話しかけてくる唇は、端がキュッとあがっていて小悪魔的な魅力がある。
すべてが整った男性にわたしは目を瞬かせた。
「だ、誰ですか? 今は俺達が話し合ってて……」
風馬が突然のことにたじろぎながら言い放つと、綺麗な人は怪訝そうに眉を寄せた。
「話し合ってるの? ホントに?」
「え、ええ……」
風馬はしどろもどろでうなずく。
しかし、綺麗な人は信じられないとばかりに首をひねった。
「どう見ても、無理やり口説いてようにしか見えなかったな」
「む、無理やり口説くって……俺の彼女なんですけど」
ムキになる風馬だけど、綺麗な人はいたって余裕の表情。首裏をかいてのんびりと口を開く。
「彼女? 状況から前の彼女って思ったんだけど。それに、断わられてるし」
「ぐっ……」
言葉を詰まらせる風馬に、綺麗な人は不敵な笑みを浮かべる。なにか企んでいそうな様子で、抱いたままだったわたしの肩をさらに引き寄せた。
「ということで、今から俺のターンね」
「た、ターン?」
順番っていうこと?
わたしが綺麗な人にたずねると、クスリと艶っぽく笑われた。
「うん、元カレくんのターンが終わって、今から俺がキミを口説くの」
「へっ? く、口説く?」
「そうだよ。俺が今からキミをオトす」
黒い瞳を妖しく光らせ、口角のあがった唇をさらにクッとあげる。