チョコレイトと親不知
行こうか、とダイスケが立ち上がったから、私も慌てて立ち上がる。

「送るよ」

そう言ってダイスケは私の2、3歩前を歩き始める。

ライブハウスから私のマンションは5分の距離だった。

またあの部屋に戻るのか、と、無意識にため息をつく。

あの部屋に居るのは、まだ苦しい。
特に夜は、いろいろなことを思い出してしまう。
大きなテディベアも、写真立ても、歯ブラシも、まだ捨てられずに居座っているから。


でも、今日は久しぶりに楽しかったな。

ダイスケのライブに来れて、歌うダイスケを観ることができた。

ライブハウスなんて普段行った事もなかったから、非日常空間を味わうことができた。

大音量でダイスケのあったかい歌を聴いてると、幸せな気持ちになれた。


そうやって数時間前に思いを馳せていると、もうマンションが目の前だった。


その光景に、一瞬にして現実に押し戻される。

またあの重たい扉を開いて、ろくに掃除もされてないあの部屋で、
あの人のいないベッドで一人で眠るんだ。

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