ランチタイムの王子様!
「あのう……麻帆さんがルージュランチのことを王子さんに聞くようにと……」
作り笑いをしながらおどおどと本題を切り出すと、王子さんは椅子に深くもたれかかって息を吐いた。
「ああ。もうそんな時期ですか……」
王子さんはデスクの卓上カレンダーをちらっと見ると、デスクの引き出しからティッシュペーパーの空箱を取り出した。
「望月さん、ルージュランチは初めてですね?」
「はい」
王子さんは卓上カレンダーに付けられていた赤い丸を指差しながら言った、
「いつも奇数月の終わりに、社員全員で昼食を持ち寄って顔を突き合わせて食べることになっています。それを我々は“ルージュランチ”と呼んでいるのです」
王子さんはトントンとボールペンをリズムよく机につきながら言った。
「へえ、そうなんですかー」
変わったルールがあるんだとふむふむ頷いていた私に、次の瞬間衝撃が走る。
「……ただし、持ち寄るのは手料理に限ります」
(…………ん?)
惰性でふむふむ頷いていた上下運動が止まり、作り笑顔が硬直する。
……まさか。
まさかですけれど。
今、手料理と言いませんでしたか?
私は思わずデスクに手をついて身を乗り出した。
「い、いいい今!!なんとおっしゃいましたか!?」
「調理方法や量は問いません。指定された食材を使い、予算内に収めることがルールです」
王子さんは取り乱した私のことなどお構いなしに淡々と説明を続けていった。