ランチタイムの王子様!
「っと、もうこんな時間!!」
私はムニエルと塩味強めのポタージュを急いで胃袋に収め、使用した食器を速やかに洗うと、慌ただしく帰り支度を始めた。
「随分、急いでいるんですね?」
本当ならゆっくり食後のコーヒーといきたいところだが、今日に限ってはその余裕がなかった。
「姉と会う約束をしているんです!!」
約束を忘れていた訳ではないが、ポタージュでやらかした失敗が思考を鈍らせていたのだろうか。長針と短針が重なるカチリという音で一気に現実に引き戻されると、残された時間が少ないことに頭が真っ白になる。
結んでいた髪を解いてバッグを肩に引っ掛けると、廊下を走って、あたふたしながらパンプスを履く。急いでいる時に限ってストラップがうまくとめられない。
待ち合わせは15時。都心のオシャレカフェエリアにある、姉の好きな紅茶専門店だ。
今から駅まで走って、電車に飛び乗ればギリギリだが約束の時刻に間に合う。
厳格な姉の前で遅刻は許されない。
王子様の城から追い立てられる様子は童話のシンデレラのようだ。
……ただし、ガラスの靴の代わりに安物のパンプスを履き、かぼちゃの馬車の代わりに公共交通機関にお世話になる庶民派です。