ランチタイムの王子様!

「つぐみ姉!!」

私は仕事をこっそり抜け出して、エレベーターを待っていたつぐみ姉にズカズカ足を鳴らして歩み寄った。

どうしても一言言わなければ気が済まない。

「どうしたの、ひばり?あなたまだ就業中でしょう?」

非難がましく睨みつけても、つぐみ姉は涼しい顔でかわしてくる。

「一体どういうつもりなの!?フィル・ルージュに依頼するなんて!!お披露目会は日取りも場所も決まったって言っていたじゃない!!」

「ああ、そのことね。ちょうど彼の海外出張と重なってね。キャンセルしたの」

「そんなの聞いてないっ!!」

「そうね。今、言ったもの」

……絶対にわざとだ。

つぐみ姉の言っていることがどこまで真実か分からないが、お披露目会をフィル・ルージュに依頼すると決めた理由があるとすればそれは……。

「ひばり、私はまだ認めていないのよ。前の会社をあんな形で辞めて、やっと再就職したと思ったらこんな小さなイベント企画会社なんて……」

……私の存在に他ならない。

「いいこと?会社を辞めさせられたくなければ、私を納得させるようなお披露目会にしなさい」

つぐみ姉の雰囲気に圧されて、ゴクンと唾を飲みこむ。

……本気だ。昔から、お姉ちゃんがやると言って現実にならなかったことなどない。

私はカツカツとハイヒールを鳴らしながらエレベーターに乗り込んで帰って行くつぐみ姉を黙って見送るしかなかった。

“まだ認めていないのよ”

私の頭の中ではつぐみ姉に浴びせられた言葉がいつまでもこだましていた。

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