ランチタイムの王子様!
ランチタイムに思い出話
仕事命だった姉が結婚すると宣言したのは年も明けた1月のことであった。
「この人と結婚します」
つぐみ姉はコンビニでお弁当でも買うような気安さで、婚約者となる男性を紹介した。
飯田と名乗った男性は「つぐみさんを僕に下さい」と型通りの結婚の許しを請うと、潔くその場に土下座した。細身のつぐみ姉と異なり、飯田さんは熊のような大きな体格を器用に折り畳み、地に頭を伏せた。体育会系のノリを地で行く、今時珍しいくらい熱い男性である。
飯田さんが頭より先に身体が動く人である一方で、うちの両親は呆気にとられて固まっていた。
仕事ばかりで、浮いた話もなかったのにいつの間に……と私も同様の反応を示した。
今は恋愛より仕事と常日頃から明言していただけあって、突然降って湧いたつぐみ姉の結婚に我が家は上へ下へと大騒ぎ。
つぐみ姉が自分から結婚したいと言い出すことなんて二度とないかもしれない。
両親は喉につまらせかけたせんべいの欠片を決死の思いをしてお茶で流し込むと、結婚の申し出を万歳三唱で受け入れたのだった。
男性なら選りどりみどりだったつぐみ姉のハートを射止めただけあって、飯田さんってば雄々しい見かけによらず、裁縫が趣味という繊細で優しい男性だった。
つぐみ姉を女神と崇める姿は騎士というよりは用心棒と言った方がしっくりくるのは、ちょっと脇に置くとしよう。
挙式はふたりたっての希望で親族だけで静かに行われることになった。
それでも、社会に出ている二人には結婚を公にする義務があって、それなら結婚の挨拶を兼ねたお披露目会を設けてはどうかという話になったのだった。