ランチタイムの王子様!

最初はほんの些細なことだった。トイレのために席を外した数分の出来事である。

(あれ?)

……午前中に片付けたはずの書類の山が明らかに増えている。

「あの……この書類って私の分担じゃありませんよね……?」

隣のデスクに座るお局に尋ねると、ギロリと睨みを利かされた。

「文句あるの?」

「……イエ。アリマセン」

やや化粧の濃い目力の迫力に負けて首を横に振ると、ふんと鼻息荒くそっぽを向かれる。

睫毛にマスカラ塗り直している暇があるなら、書類を片付けてもらえると大変助かるのですが……。

可愛らしくデコられた派手な鏡と睨めっこするお局(38歳)は、こちらの心境などお構いなしに、ぎゅるんぎゅるんに睫毛を上昇させている。

(仕方ない……)

新人故に逆らえず、増えた書類に手を伸ばしたのがいけなかった。

言うことを聞く奴隷を手に入れたと味をしめたお局は、次の日も、そのまた次の日もしつこく同じように仕事をこっそりと私に押し付け始めたのだ。

理不尽な扱いがエスカレートし、身に覚えのないミスを押し付けられ、階下のコンビニまでパシられるようになるまでそう時間はかからなかった。

(な、なんでこんな目に……!!)

コンビニまで走らされるなんて高校生!?

ぜえぜえ、はあはあと階段で息も絶え絶えになりながら、恨み言を吐いたのは一度や二度ではない。

ひとり、またひとり課内の同期が退職していくと、お局の暴走は一層ひどくなった。

そして、とうとう私にも我慢の限界、もとい堪忍袋の緒が切れる時がやってくる。

< 123 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop