ランチタイムの王子様!
「ええ、白鳳堂のロールケーキですとも!!」
デパートの開店する朝10時から2時間も並んで、ようやく手に入れることが出来たのだ。
「食べたことないのに、たかがロールケーキってバカにしないでもらえませんか?」
大好きな食べ物を否定されると、自分まで悲しくなる。
「お局さんに虐められていた当時の私にとって、この白凰堂のロールケーキは何よりも大切な物だったんです」
確かに、ロールケーキひとつで会社を辞めようと思った私は浅はかだったかもしれない。
最近の若者は忍耐力がない、すぐ辞めるという人もいる。
でも、他人には取るに足りない出来事に見えても、当人にとってはどうしても譲れない場合だってあるのだ。
……私にとってはそれがロールケーキだっただけのこと。
だから、王子さんにも私が白鳳堂のロールケーキを食べた時のあの幸せな気持ちを知ってもらいたかったのだ。
王子さんは約束がないからと追い出すようなことはしなかった。ロールケーキの箱を受け取ると、私を労うように頭をポンッと叩いた。
「……どうぞ上がってください。折角ですから一緒に食べましょう」