ランチタイムの王子様!
「望月さん、まだ残るつもりですか?」
よほど集中していたのか、王子さんに声を掛けられるまで私はオフィスの電気があちこち消えていることに全く気がつかなかった。
「あれ、他の方たちは?」
辺りをキョロキョロと見渡せば、先ほどまでちらほら残っていた人もすっかりいなくなっている。
「もう帰りましたよ。あなたも今日は退社したらどうですか?」
どうやら、最後に残ったのは私と王子さんだけのようだ。
「あー……。私はもうちょっと残ります。お気遣いどうもありがとうございます」
アルバムはまだ、完成とは程遠い仕上がりである。
アルバムはフィル・ルージュの社員としてではなく、妹として姉の門出を祝うものとして贈りたいので、就業時間中に作業を行うなどもっての外である。
ならば、もう少しきりの良い所まではやっておかないと、お披露目会にとても間に合いそうにない。
「では、お先に失礼しますね」
「お疲れ様です」
そう言って、王子さんがジャケットを羽織ってオフィスから出て行くと間もなく辺りがシーンと静まり返った。
光源は蛍光灯がふたつとデスクライトだけ。非常口を示す緑色の誘導灯が不気味に光っていてぶるっと身体が震える。
よーく考えたら夜のオフィスにひとりきりって……怖い。
(うう……。頑張ろう……)
……どうか、お化けがでませんように。