ランチタイムの王子様!
グラタンを完食すると、王子さんの言葉に従って車で家まで送ってもらう。
夜の道路は空いていて、疲れてうとうとしている間に自宅アパートの前に着いてしまった。
「着きましたよ」
肩をゆさゆさ揺らされて重い瞼をゆっくり開けると、思いの外至近距離に王子さんの顔があって、心底驚く。
「疲れているなら部屋でゆっくり寝なさい」
コツンと小突かれた額がやたらと熱くて困る。
普段はとっても厳しいのに、時々ひどく優しい。私なんか簡単に翻弄されてしまう。
……自分が自分で無くなっていくような感覚がする。でも、不思議と嫌じゃない。
私はそそくさとシートベルトを外して車を降りると、ぺこりと頭を下げた。
「送っていただきありがとうございました」
「それでは、また明日会社で」
その言うと車は直ぐにも走り出してしまいそうだったので、慌てて助手席の窓に張り付く。
「あのっ!!王子さん!!」
肩に掛けたバッグの持ち手をぎゅうっと握って、勇気を振り絞って伝える。
「ごちそうさまでした!!美味しかったです、グラタン」
一生懸命心を籠めてお礼を述べると、王子さんふっと表情を緩めて、また蕩けそうな笑みを浮かべるのだった。
「おやすみなさい、望月さん」
私が助手席の窓から身体を離すと、王子さんの運転する車は今度こそ闇の中に静かに消えていった。