ランチタイムの王子様!
「望月さん、大丈夫ですか?」
イタタと、したたか打ちつけた鼻を押さえながら答える。
「すいません、王子さん」
そういえば、以前にも同じことがあったなとおぼろげながら思い出す。
「若王子さん!!お子様用ドリンクメニューなんですけど……」
ゆりあさんは王子さんの姿を見つけると、小走りで駆け寄ってきた。
「お子様用は、オレンジ、アップル、グレープジュースとお茶類ですよ。給仕係に確認しておきました。常温も用意するように指示しましたよ」
「ありがとうございます。助かります」
「あと、これ祝電です。受け取っておきました」
王子さんはそう言うと、小脇に抱えていた祝電の束を私に手渡した。
さすが。出来る男は仕事の速度が違う。今日一日のスケジュールも完璧に頭に叩き込まれているようだ。
さて、法人担当の王子さんがなぜお披露目会の準備を手伝っているかというと、ひとえに9月~11月が結婚式のハイシーズンだからである。
つぐみ姉のお披露目会は当初の予定になく急遽決まった案件であるため、ブライダルチームから他に余剰人員が割けなかったのだ。
会場スタッフとのやり取りにも慣れていて、車の運転もできる王子さんはまさにうってつけの人材。つまり、今日限りの助っ人なのだ。
まあ、助っ人にしては貫禄がありすぎるけれど……。
「ひばりちゃん、こっちは大丈夫だから新婦の様子を見てきてくれる?」
王子さんとこの後の段取りを確認していたゆりあさんが、ぼうっと突っ立ている私に気がついて背中を叩いて促してくれる。
「はい!!分かりました!!」
……明晰な頭脳も現場を仕切る経験もないのならその分、身体を使うしかない。
私はゆりあさんの指示通りに、新婦控え室へと急いで向かったのだった。