ランチタイムの王子様!
「ひばりちゃん」
どんよりとした気分で新婦控室から出ると、新郎の弘忠さんがタキシード姿で待ち受けていた。
「あ、お義兄さん」
「ごめんね、つぐみが色々と迷惑かけたみたいで……」
大きな体を小さく縮め、ぺこぺことお辞儀をして謝るとはなんとも器用なお人だ。
確かにちょっと時間が足りなくて大変だったし、残業もいっぱいしたけれど、弘忠さんに謝ってもらうほどのことではない。頭を下げられてしまっては、こちらこそ恐縮してしまう。
「あの……なんだかんだ言ってつぐみ姉のお披露目会を手伝えて楽しいです。迷惑だなんて思っていませんから、とりあえず顔を上げてもらえますか?」
おめでたい日に水を差すような真似をはしたくはない。
しかし、弘忠さんは頑なに謝罪の姿勢を崩そうとはしなかった。
「実は……僕の海外出張のせいでお披露目会をキャンセルしたって話は嘘なんだ。殆ど決まっていたお披露目会をひばりちゃんの会社に任せるって言いだしたのはつぐみなんだ」
弘忠さんは心底済まなそうに言うと、大きな息を吐いて折角セットした髪をクシャっと潰した。黙っていることも出来たのに、このまま見過ごすのも心苦しいという弘忠さんの葛藤がよく分かった。
(やっぱり、良い人だな弘忠さんは……)
この人と結婚しようと思ったつぐみ姉の目は確かだ。