ランチタイムの王子様!
「なんとなく……気づいていましたよ。つぐみ姉ならそれくらいやりかねないって」
私は弘忠さんに心配をかけまいとニッコリ笑って答えてみせた。
そう、なんとなく分かっていた。
前の会社を辞めてから、家の中でつぐみ姉と会話する機会は目に見えて減った。
互いに就職してからも実家で暮らしていたので、毎日仕事に追われていてもそれなりに顔を合わせていたのに、つぐみ姉の態度は私の退職を境に急によそよそしくなった。話しかけても生返事、朝晩の挨拶くらいしかまともなやり取りはなかった。
……とうとう愛想が尽かされたんだ。
ぎくしゃくした空気に耐えられなくなった私はフィル・ルージュへの就職が決まると同時に実家を出て一人暮らしを始めたのだ。
だから、フィル・ルージュからの退職を迫るためだったとしても、つぐみ姉からお茶に誘ってもらって嬉しかったんだ。
お披露目会を任せてもらったことだって頼りにしてもらえたみたいで誇らしかったのに、つぐみ姉は違ったのかな。
あくまでも、私を退職させるために仕組んだことなの?